ごく普通の田舎家がレストランに

手作りの小さな表札

行者がギリシアのリゾートで郷土料理に出会うのは意外と難しい。タヴェルナのメニューが、イェミステス、ムサカ、スブラキなどとほとんど決まりきっているのは、どこの国でも同じだ。その土地の人が毎日家で食べているような料理を、わざわざ食堂で食べる人はいないということか。
　タヴェルナ・カラスは、ザキンソス島で本格的な郷土料理を食べることができる貴重な一軒だ。
　昔ながらの生活を残す数少ない村の一つ、カンビ（Kambί/Καμπί）の狭い街路沿いの白い塀をくぐる一軒民家と区別がつかない小さな入口がある。自然木を利用したプレートが目印だ。
　青い扉を抜けて進むと、戸外にキャンプ場の炊事場のようなグリルと、庇の下、そして大きな木の下の庭の中のテラス席が配置された、個人宅をそのまま改装したと思われるタヴェルナが現れる。

中庭と庇の下とが食卓、部屋はない

ニューには、どのタヴェルナにもあるギリシア料理の数々はもちろん含まれるが、カラスの名物料理は、カツァロラス（κατσαρολας）と呼ばれる煮込み料理だ。兎、鶏、牛、豚、羊、山羊など殆どの家畜の煮込み料理がオーダーできる。
　ドライオレガノを塗したトマトサラダ、ナスのサラダ、オーブンの焦げ目がしっかりついたイェミステス（トマトの米詰）、パスティチオなど、手の込んだ感じはないが家庭風の素朴な味わいだ。
　メインには、いかにもギリシアの田舎らしいヤギの煮込みを注文してみた。トマトでしっかり煮込んだ肉に、フライドポテトが添えられたボリュームたっぷりの一皿だ。硬すぎることもなく、思ったほどクセも強くないので、食べにくい感じは殆どない。

ヤギの煮込みは、しっかりした歯ごたえだが硬くはない	スポンジにシロップを染み込ませたギリシア風のケーキ

夜深くまで続く楽しい時間