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海を見下ろす断崖の巡礼地
Tìndari
ティンダリ
(イタリア)
断崖に面した聖所記念堂前のテラスであるベルヴェデーレ広場から見る砂州の眺め

抜274メートル、シチリア北部のティレニア海からそそり立つ断崖の上に、ギリシア人がテュンダリスを建設したのは紀元前4世紀のことである。都市を囲む城壁や劇場、目抜き通りや街区の跡などが、ローマ時代に加えられたバジリカなどと共によく残されている。
 しかし現在ここを訪れる人並みの殆どは、聖地巡礼を目的としたものだ。巡礼といっても堅苦しいものではなく、感覚としては日本の初詣に近いものかもしれない。古代のアクロポリス跡に立つ真新しい立派な建物は、マリア・サンティッシマ・デル・ティンダリ聖所記念堂(Santuario Maria SS. del Tindari)だ。東方からもたらされたとされるマドンナ・ネーラ(黒いマリア)が御神体として祭られている。

完成後30年経っていない真新しい聖所記念堂

 ティンダリは、海を望む人里離れた山中にある。夏のシーズン中ともなれば、メッシーナとパレルモを結ぶ国道の分岐点を曲がった途端に駐車場に誘導され、ピストン輸送の満員バスに詰め込まれて、記念堂への山道を登っていく。ほんの数分後に古代テュンダリスの城壁のところで降ろされ、ここから参道を登っていく。参道の両側、キリスト教関係の品々や、マリア様に負けぬ人気を得ている現代の聖人ピオ神父の肖像に始まり、地域名産のお土産や食べ物、子供向けの炒り菓子など、さまざまな屋台が軒を連ねている様子は、お祭りの縁日のようだ。
参拝客で賑わう参道
南イタリアやシチリアでは、ピオ神父の肖像が人気がある




炒り菓子を売る屋台


ギリシア劇場は、夏季には現在でも使われている。
モザイクに残るトリナクリア(ギリシア時代のシチリア島のシンボル)
 聖所記念堂は外観上は教会とほぼ同じ作りをしており、ただ祭られているのがキリストではなく、マドンナ・ネーラであることだけが違いである。裏手の旧記念堂に代えて前世紀に建造されたものだが、完成後まだ30年経っていないので、金のモザイクの輝きが神々しい。

 記念堂前のベルヴェデーレ広場からは、ミラッツォ岬からエオリエ諸島にかけての眺めが広がる。眼下の白い砂州とティレニア海の青とのコントラストとが織り成す、自然の不思議な造形の美しさにも目を奪われる。