「地中海」各国の特徴を、それぞれひとことで言うと?

「地中海」各国のひとこと紹介を、表にまとめました。大きな国になると内陸部は全く違った特徴が出てきますので、ここでは地中海沿岸に限定して述べました。

地図で一番左(西)のポルトガルから時計回りで順番に紹介しました。



ポルトガル

 厳密には地中海ではなく大西洋に面しているが、いろいろな意味で地中海沿岸の一部と考えた方が理解しやすい国なので加えた。スペイン南部のアンダルシアと同じくローマ帝国、アラブ系イスラムの王国、カトリックの王国の支配を受け、両者が渾然一体となった独特の雰囲気を醸し出している。

イギリス領ジブラルタル

 英国の海外領土。イベリア半島の最もアフリカに近い要衝の地にある都市国家。多民族が混住し、住民の意志により英国に帰属。

スペイン

 南部のアンダルシア地方はポルトガル南部と同じくヨーロッパとアラブの混じった、白い家と黒い髪の人が目立つ独特の雰囲気を持つ。バレンシアを中心とする中部はラテン系スペイン人の住む平均的なスペインらしい地域。北部のバルセロナを中心とする一帯にはフランス南部のプロバンス人と同系のカタルーニャ人が住む。スペインの中では最も西欧的な地域の一つ。また地中海に面した北アフリカにも2つの海外領土を持つ。

フランス

 地中海沿岸のプロバンス地方は近年有名になったが、パリを中心とするフランスにとっては重要度の低い片田舎で、バルセロナのカタルーニャ人と同系のフランス語とは異なる言語を持つ人々が住む。長くフランス人の支配を受けたため地中海的要素がやや弱くなっている。なおコルス島は近年フランスに併合されるまでイタリアの一角を占めていた島である。

モナコ

 プロバンス地方の一角をしめる小さな独立国。中世の公国の数少ない生き残り。風光明媚な土地であり国家の経済を観光にかけ存続している。

イタリア

 地中海に長く突き出たイタリアは、地中海を東のアドリア海、西のティレニア海に分けている。その海に近いという地理的特徴のため有史以来、様々な民族がここを訪れた。現在のイタリアは大ざっぱに見てギリシア、アラブの影響の強い南部、ラテン的要素の強い中部、北方系の影響の強い北部に分かれるが、地域ごとの多様性が強く一体感に薄い。カトリックの宗教的一体性のみが共通点である。それだけに一国で何回でも楽しめる見所の多い国でもある。

スロベニア

 スラブ系スロベニア人の国で、地中海沿岸では唯一ドイツ的な雰囲気が強い珍しい国である。この地をめぐるイタリア人との争いは古代ローマ帝国以来約1500年間続き、国境が確定したのはわずか約40年前のことである。今では海の少ないスロベニア人にとっての貴重なリゾート地として、夏期には大混雑する。

クロアチア

 複雑な海岸線と1000を越える島々は様々な民族が混住するのに都合の良い空間であった。特にイタリア人とスラブ系クロアチア人の争奪戦は周辺諸国を巻き込み1500年間つづき、全域がクロアチア人の手に落ちたのはごく最近(1954年)のことでる。従って地中海に面したクロアチアの町や島々はどこもイタリアの面影を今に伝える美しい町ばかりである。

ボスニア・ヘルツェゴビナ

 内陸国のボスニア・ヘルツェゴビナは地中海沿いに唯一の海港ネウムを有する。内戦以後クロアチア人支配地域に入っているため、内陸の同国にとってはネウムは全く意味のない町になっている。

ユーゴスラビア

 クロアチア人同様、セルビア人が長い年月を掛けてようやくイタリア人から奪い取ったのがユーゴの海岸線である。やはりイタリア風の美しい町が見られる。

アルバニア

 この半島の古い住人であるアルバニア人の国。ローマ帝国、ビサンツ帝国の支配を受け地中海文化の影響を受けるが、今世紀まで5世紀の間トルコの支配が続いたため国民の多くがイスラム教徒である。

ギリシア

 古代エジプトについで紀元前の地中海で最盛を誇った海洋国家。その勢力は遠くスペインからロシアにまで及んだ。オリンポス神を捨て最初にキリスト教を信仰した有力民族となり、東方キリスト教の中心地となる。その後ローマ帝国に併合されるが、ビサンツ帝国の中心民族として長く文化、宗教の中心地として周辺諸国に影響力を及ぼす。首都コンスタンティノポリスをトルコに奪われた16世紀に事実上滅亡する。トルコ領時代の宥和政策のため、旧トルコ領を中心に文化、宗教はきわめてよく保存されており訪れる価値が高い。このあたりは民族が流動的な地域であり、北部はスラブ的、東部はトルコ的、南部の島々はアラブ的、旧イタリア領の島々はイタリア的な雰囲気を漂わせており、国家としての統一性はギリシア正教のみに見られる。

トルコ

 地中海で唯一のアジア系民族の国。従来トルコ人は中央アジアに住んでいたが、長く住み着いていたギリシア人を13世紀以来少しずつ追い出し、今世紀この半島の沿岸はついに完全にトルコ人のものになった。最盛期には遠くアルジェリアまで地中海の半分を制したが徐々に押し戻され現在の位置に落ち着いた。かつて東地中海に君臨した時代の置きみやげとして言語、宗教、食事、習慣などの面でトルコの影響を色濃く残す国は多い(ギリシア、ユーゴスラビア、アルバニア、キプロスなど)。しかしトルコ自体もかつての東方キリスト教の総本山イスタンブールをかかえ、イスラム、キリスト教、遊牧民族トルコ族の文化が混じり合った独特の雰囲気を有する。

キプロス

 東地中海の真ん中に浮かぶこの島は過去に様々な民族が訪れ、複雑な歴史を持つ。現在南部のキプロス共和国(ギリシア系)、北部の北キプロス・トルコ共和国(トルコ系、国連未承認)の2つの国があり、その国境線上にの首都ニコシアも壁で2つに分断されている。しかし両国とも観光客には安全である。キプロス共和国はギリシア的雰囲気の強い美しいリゾートである。

シリア

 地中海とペルシア湾をつなぐ交通路の一端として古代より栄える。それだけにありとあらゆる民族の支配と影響を受けて来た。ここに本拠を構えるフェニキア人は北アフリカに多くの植民地をつくり大いに活躍した。現在はアラブ人の住むイスラム教国である。

レバノン

 歴史的にはシリアの一部を構成する地域であったが、第二次大戦後フランスが人工的に作った多民族国家。イスラム教徒のアラブ人が多いが、キリスト教徒の各宗派の人口も合計25%をしめる。

イスラエル

 1948年に約2500年ぶりに再建されたユダヤ人国家。ユダヤ人は小規模な民族だが、聖書を通じて全世界の文明に多大な影響を与えた重要な民族。建国以来、先住のパレスチナ人や周辺のアラブ諸国とのいさかいが絶えない。

エジプト

 紀元前に約3000年間も続く強大な王国を維持した先進国であったが、紀元後の2000年間は植民地または地方国家に甘んじている。しかし王国滅亡後も古代ローマ帝国の一州として、またイスラム帝国の要衝の地として地中海文化に多大な影響を与えた。

リビア

 有史以来エジプトまたはカルタゴ(現チュニジア)の一部であり目立った都市もないが、1912年にイタリアが割譲して以来一つの地域として認識されるようになった。沿岸部にはアラブ人が住む。

マルタ

 地中海の真ん中に浮かぶ小島。キプロス同様その戦略性からありとあらゆる民族の支配を受けてきた。ここに住む人はカトリックを信仰しながらローマ文字を使い、アラビア語系のマルタ語を話す。さらに近年統治したイギリスの影響も強く受けた不思議な魅力のある小さな島国である。

チュニジア

 シリアに住むフェニキア人の植民都市カルタゴ(チュニジアの前身)は一時はスペインにまで広がるがその後次第に力を失いイスラム帝国に飲み込まれた。アフリカの最北に位置し、現在でも温暖な気候とヨーロッパへの近さから繁栄がつづいている。

アルジェリア

 強大な民族や都市がないため他民族の支配下にあった期間が永く、近年はフランスの一部であった。有力都市であったアルジェにはアラブ特有のメディナが残っている。地中海沿岸は温暖で快適な気候の地域である。

モロッコ

 遊牧民族のベルベル人が主体の国。宗教都市フェズを中心に栄えた。その後フランスとスペインに占領され、メリリャ市とセウタ市は今でもまだスペインが領有している。国土は比較的緑が豊かである。