ースから各駅停車に乗って二駅、大都市と隣りあわせとは思えないくらいにきれいな海に面した、美しい漁村がある。それが、ヴィルフランシュ・シュル・メールだ。
駅に降り立つと、目の前に絵のように美しい明るい青色の入江が広がり、白砂の海岸は夏ともなればビーチパラソルの花がいっぱいに咲く。
途中から海側に一段下がって並走する、オブスキュール通りに下りてみよう。 夏の日差しや冬の風を遮るためだろう、隣り合わせに立つ町の家々の1階部分をくり貫いて作られた通りは、完全にトンネルになっており、昼でも電灯がついている。 このあたりは14世紀の市街がそのまま残る、歴史的にも貴重な地区だ。
その真っ只中にある緑の日よけの老舗レストランが「ラ・ジェルメーヌ」、実力は折り紙つきの魚料理店だ。 のどかな感じがするのは、海岸沿いが歩道になっているためだけではない。 海にはヨットに混じって地元の漁船が停泊し、日中ならあちこちで漁が終わった網を干す光景が見られる。
そんな町の風情が芸術家達を惹き付けるのであろう。彼等の足跡がそこここに有り、鐘楼の見える路地をふと覗き込むと、本物の風景と対比するように作品のレプリカが飾ってあったりする。 小さな漁港の前にある見逃してしまいそうな小礼拝堂が、ジャン・コクトーが外装・内装を手がけた、サン・ピエール礼拝堂だ。 漁師の守護神であるサン・ピエールを祭った古い礼拝堂の改装を手がけるに至ったのは、コクトーのこの町に対する深い愛情があったことは間違いない。
すぐその脇には、有名なオテル・ウェルカムがある。 海に面して立つ古いホテルのテラスからは、ちょうどプロムナードや漁港越しに湾内が一望できる、人気の高い由緒あるホテルだ。 サン・ピエール礼拝堂製作の時に、ジャン・コクトーが滞在したことで知られている。
海沿いの小さな丘の上にサンテルム要塞がある。16世紀、サヴォワ公国時代に作られたもので、現在は誰でも入ることができる。 ものものしい跳ね橋(現在はコンクリートで固められている)を渡って場内に入ると、中は町役場や美術館などの公共施設として小奇麗に整備されている。 ここから眺める海は、外に広く開けており、また違った印象だ。マジョルカ焼風の四色の瓦と木々の緑が、一面の青に良く映える。
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