"地中海,ジブラルタル,gibraltar"
ヘラクレスの柱の麓の風光明媚な港町
Gibraltar
ジブラルタル
(ジブラルタル)♦♦
Centro
Storico

そそり立つザ・ロックの岩峰

ンダルシアを旅する人が、意外と見落としがちなのがジブラルタルだ。
 古代からヘラクレスの柱と呼ばれるあのそそりたつ岩山と、見所豊富な港町に、何故よっていかないのだろうか。
 ジブラルタルは1704年以来イギリスが支配し、1713年のユトレヒト条約で租借権として権利が確定したとされる。


ロープウェイ山頂からスペインを望む

 他の英国海外領土を見ると、租借権の切れた香港は返還され、キプロス島では相手国の主権を認めながら純粋な基地利用権として継続されている。
 強引に居座り続けているジブラルタルは、ある意味、特殊な例と言える。
 英国、スペインの両政府とも返還の方向で調整が進むにも関わらず、住民の反対に押されて自治国政府が英領残留を希望するという、複雑な立場に置かれている(2009年現在)。



免税店で賑わう中心街はその名も「メインストリート」

国自治領ジブラルタルは、独自の国旗、通貨(ジブラルタル・ポンド)を持つ人口3万人弱の都市国家で、EU加盟国でもある。
 その歴史から分かる通り歴史と地政学的環境から、国内基盤はまさに複雑なカオスのような状況だ。
 言語は公式には英語だがスペイン語が完全に通じ、通貨は英国ポンドと1対1で交換できるジブラルタルポンドで英国ポンドも併用されている。人種はスペイン系が多く、アフリカ人も多い。車は英国と異なりスペインと同じ左側通行だ。


市街地の雰囲気は一見スペインと変わらない

 スペイン風の市街地に時々混じる英国風の建築が面白い。住民の殆どは、300年にわたりスペインから度重なる攻撃や圧力を掛け続けられたため極度のスペイン嫌いだが、食べ物や祭りなど共通の文化的基盤を共有している。時折混じる、英国のチェーン店、英国風のパブなどに、僅かにアイデンティティーが感じられる。
 ジブラルタルは交通の便が良く、英国からは直行便の飛行機が、モロッコのタンジェからは船便があるが、日本人はジブラルタルだけを目的とした旅行は少ないだろう。
 スペイン・アンダルシア地方の町、リネアから徒歩での入国は、主要な選択肢の一つだ。バスやタクシーなど公共交通で中心部に移動できるので、意外と簡単だ。

スペイン領内からもはっきりと分かる岩山



国の守り神(?)として大事にされる猿

一の見所は、なんといってもザ・ロックと呼ばれる標高423メートルの尖った岩山だ。ロープウェイで山頂駅まで上れば、食事もできるレストハウスと展望台がある。北から西にかけてはスペインの海岸線、東は目も眩む崖の下にきれいな海岸が見え、そして南は海峡を隔ててスペイン領セウタとモロッコの山々が間近に見える。
 植民地を求めて大西洋に漕ぎ出した古代ギシリア人たちは、ヘラクレスが大地を割って地中海を大西洋に繋ぐ入口とし、その両側に門柱としてヨーロッパ側にジブラルタルのザ・ロックを、アフリカ側にセウタのモンテ・アチョ(モロッコのムサ山との説もある)を立てたとしていた。
 岩山の山頂はオーハラ砲台(O'Hara's Battery)と呼ばれる砲台になっている。現在は立ち入り可能なようだ。


アラブの古城跡のハミッジの塔がスペイン方向への睨みを利かす

 山腹は自然公園になっていて、有名なジブラルタルの猿が生息している。イギリス軍と共にやってきた猿は大事にされており、猿がいなくなった時はイギリスがジブラルタルを去る時だ、と囁かれている。
 第二次大戦中に猿の数が減少すると、チャーチル首相自ら猿の補給を命じたと言う。 すぐに肩に乗ってくるが、人慣れしているので怖がることはない。

港越しに見える右がスペインのタリファ岬、左がモロッコのムサ山


英国風のジブラルタル料理は今ひとつ


 ザ・ロック周辺には、洞窟や戦跡なども多い。
 スペインに近い北側の城壁上には、イスラム時代の城跡があり、一番高いハミッジの塔(Tower of Homage)も素晴らしいビューポイントだ。港と町とを間近に見下ろし、さらに大陸とジブラルタルとを繋ぐ縊れた地形に作られた空港と、その滑走路を横切ってスペインへと続く道路、そしてスペインの町まで一望のもとだ。

最南端の寂しいヨーロッパ・ポイント


 ジブラルタルの市街地はザ・ロック西側の僅かな平地に長細く伸びている。
 目抜き通りは正式名称も「メイン・ストリート」(Main Street)とそのままで、関税のかからない免税品を求めて、スペインからの客が訪れる。

「ヨーロッパ最果ての店」という土産店

 最後にやはり、最南端の岬、ヨーロッパ・ポイントへ行ってみたい。地理的には近くのスペインのタリファ岬の方が南になるが、最果ての雰囲気なら断然こちらの方が良い。
 街並みが途切れると、目の前は海だけになる。アフリカの大地を見据える高台には、サウジ国王の寄進により建てられた白亜の巨大なイブラヒム・アル・イブラヒムモスクが聳えている。
 ジブラルタルの岩山は、ついには岩礁となって地中海に消える。そこは、何もない寂しい場所で、灯台と小さな教会、そして一軒の土産店とがあるだけだ。

海上から見たジブラルタルの全景