の町とさえ呼びたくなるような孤高の町が、カルパソス島北部の海を臨む高地にある。
この秘境の町にも、21世紀に入り車道が開通した。以前からジープ専用の山道はあったが、ついに普通乗用車で走行可能な道路が未舗装ながらも整備され、隣の村スポア(Spoa/Σπ ό α)から約20kmの走行で入れるようになった。 またシーズン中は観光ツアーが組まれ、毎日のように船が出港するので、それを利用するのも良い。 町の名を、オリボスという。日本ではオリンポスと呼ばれるようだ。ギリシア語のμπは二文字でbと発音されるが、文字としてはローマ字のmpに相当するため誤読されるらしい。 英語でも表記が乱れており、ギリシアの地名では良くあることだが、世界的に読み方が混乱しているように見える。
周辺の山上に村を作り、台地を開墾して作物を育てた。島の支配者は次々と変わったが、オリボスの人々は大きな影響を受けずにひっそり暮らしていたようだ。 カルパソスがギリシアに復帰した1947年以後、一部のオリボスの住人は山を降り、海岸沿いにジアファニの町を建設した。
代に入るまで、オリボスはカルパソス島の中心地だった。
シーズン中は観光客で賑わうというが、訪れた冬の季節には殆ど人影がなく、近年発展してすっかり塗り直されて一新された印象の街並みではあるが、農作業に出向く老女の黒い衣服や、山の上の崩れかけた荒い石組みの風車に、辛うじて秘境の雰囲気が保たれいてた。 町に入る1km手前の小さな聖堂の脇で、ジアファニ(Diafani/Διαφάνι)から登ってくる道と、スポア(Spoa/Σπ ό α)から山を縫って続く道とが合流する。ここから眺めるオリボスの姿は、とても印象的だ。灰白色の険しい山に覆い被さるように方形の小さな家がびっしり張り付く様子が、強烈に迫ってくる。
雑な形に広がる町は、全容を把握しがたいが、大まかに言えば、フタコブラクダのコブの間に町が乗っているような感じだ。
手すりや壁の唐草模様や記号のような独特の装飾があしらわれているのが目をひきつける。 ほどなく峠状の部分に出ると、息を呑むような光景だ。入り組んだ海岸線は激しい崖が連続し、急傾斜で海へ落ち込む斜面の上部には点々と家が散らばり、山に向かう稜線上には古い風車の残骸が連なっている。
見晴らしの良い小さな町の広場の脇の教会が、唯一の大きな建造物で、その周辺に数少ないカフェニオンがあるくらいだ。シーズン中には、土産物屋やタベルナも開店しにぎやかになるらしい。 静かな町に、少々気の抜けたような太い音色が響き渡っている。地元の人によれば、ツァブナ(tsabouna/τσαμπούνα)というバグパイプの一種だと言う。紀元前から伝わる楽器で、ヤギの皮で作った袋に吹き口が付いた奇妙な形の楽器だ。 島の中心地ピガジア(Pigadia/Πηγάδια)からオリボスまでは、陸路にしても海路にしても、断崖にそそり立つカルパソスの海と島のスペクタルを楽しむ素晴らしいツアーになる。ぜひ訪れてみたい町のひとつだ。
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