"地中海,イタリア,ドルチェアクア,dolceacqua"
村全体がまるでダンジョン(地下迷宮)
Dolceacqua
ドルチェアクア
(イタリア)♦
Centro
Storico

太鼓橋を渡ると、中世のダンジョンが始まる

から見ると、どこにでもある谷間の町の一つような感じがする。だが、一歩足を踏み入れると、そこはまるでダンジョン(地下迷宮)のような薄暗い世界。
 ドルチェアクアは、訪れた者にそんな不思議な印象を残す町だ。

教会前の広場は、旧市街で唯一明るい場所

 リビエラ海岸のイタリア最後の都市ヴェンティミリアから僅か8km谷を遡ると、既にそこは山深い渓谷地帯になっている。
 谷間のわずかな平地に開けた新市街から、中世の石橋を渡った対岸の急峻な山の斜面に作られているのが、ドルチェアクア旧市街だ。
 「甘い水」を表す町の名に興味を引かれるが、起源を辿るとラテン語か、ケルト語の地名が訛って、そんな発音になったらしい。
 現在の城は、13世紀に町を手に入れたジェノヴァのドリア家が建設したものだ。戦乱と地震で崩壊し一時は打ち捨てられたが、最近になって観光用に、一部修復されている。

城へ続く道の入口。この時点では、陰鬱な様子は微塵もない。


 山の中腹から川面にかけて、中世の古い家々が密集し、最上部には村を支配するかのように、お世辞にも優雅とは言えない砦のような城が、覆い被さっている。
 歩道橋の階段を上るかのような傾斜のきつい太鼓橋を渡ると、いよいよ旧市街だ。
 右手には、典型的なリグリア風の地区教会、サンタントニオ・アバテ教会があり、旧市街で唯一陽光に溢れる一角を作り出している。

薄暗い通りに、僅かに青空が覗く

から城までは、曲がりくねった一本道ヴィア・カステッロ(Via Castello)が続いている。

トンネル部分が多い。店には一日中灯りが灯る。


発掘した遺跡のような雰囲気だが、今も人が住んでいる

 約3メートル幅の人がすれ違える程度の道の両脇は、中世以来の黒ずんだ石を積み上げて作った4〜5階建ての古い建物がぎっしり立ち並んでいる。
 隣家と横同士結合している上、道の上に渡したバットレス(アーチ状の支え)で向かいの建物とも互いに支えあっている。
 道路上に建物自体が建設された部分も多く、その中を暗く曲がりくねった道がぶち抜いている。

急傾斜上の建物は、何階建てかも良く分からない

 うっかり枝道に入ってしまうとそのまま穴蔵で行き止まりだったりすることもある。
 傾斜地に作られた街は、建物が被い尽くしているため元の地形がもう分からなくなっている。建物の上や中につけられた階段や歩道を辿って移動するわけだ。町全体が、一つの巨大な構造体といっても過言ではないだろう。

 所々を、蛍光灯が照らしている。
 この道を歩いていると、時折見える空が、とても貴重なものに思えてくる。実際、陽の高い時間であるのに薄暗く、通り沿いの食堂や土産物店は、一日中電気をつけている。
 通りに面した入口が、実は遥か下方の建物の4階部分であったりもする。どこからどこまでがどの建物で、道がどのように続いているのかよく分からないほどで、まるで3次元の地下迷宮さながらだ。

遥か下方の通りに面した建物の別の入口。ここは何階?


 そうは言っても旧市街は小さいので、抜けられなくなる心配は全くない。全ての道を歩き尽くすつもりで、この迷宮を楽しんでみたい。

上から見下ろすと、城は廃墟であることが分かる

 やがて、建物が2階建て程度の高さになり、家の壁や時には道路上に日向の部分が現れるようになると、城も近い。ごく普通の山道になりホッとしたころに、城の入口がひょっこり見えてくる。
 もう少し進むと、城と町とを上から望む山の斜面に到達する。下から見た威圧的な城の姿と違って、城もこの町ももはや過去の遺物であることが、強く印象付けられる。