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地中海「食」生活


 ここは、日本国内で「地中海の地方料理、伝統料理を味わう方法」について研究するページです。不定期に随時更新し、内容を拡張して行く予定です。

 よく、アメリカの「baseball」と日本の「野球」は違うといわれています。ルールはほとんど同じであっても、文化の違いが原因となってゲームの進め方が異なってしまい、あたかも別のスポーツであるかのようだ、ということを表しています。

 料理についても同じで、たとえば日本国内の「イタリア料理」とイタリア各地の伝統料理とは、一見同じであるようでも、実はかなり異なるものなのです。
 たとえば、日本のミートボールやとんかつはトスカーナ地方に行くとそれぞれ、Polpette di Carne、Cotoletta di Maiialeという郷土料理になります。これらは一見似ている料理ですが同じものではありません。その違いは、日本のイタリアンレストランとイタリアの食堂の料理との間にも同じように存在します。

 その違いは具体的にどのようなものなのでしょうか。イタリアの場合を例にとって考えてみましょう。

日本の「イタリア料理」イタリア各地の伝統料理
日本で取れた素材を使う。例えば同じトマトでも品種や栽培条件が異なるため、イタリア各地のものとかなり味が違うことがある。ただし国内産なので鮮度は良いものが使える。入手しにくい材料は代用品を使用する(ムール貝の代わりにハマグリなど)。 素材
(生鮮食品)
その土地で取れた新鮮な素材を使う。
乾燥品を多用する。香りがあまり残っていない。フィノッキ(フェンネル)など入手しにくいものもある。 素材
(ハーブ)
生を使う。味と香りが良くでる。また種類も豊富。
瓶詰め、缶詰を使う(オリーブオイル、オリーブの実、ケーパーなど)。輸入品になるので長期保存用の加工をしてあり、味がかなり落ちる。 素材
(加工品)
生または簡易加工品を使う。瓶詰め、缶詰などの長期保存のための殺菌・静菌をしないので本来の味が残っている。
乾燥品を用いる。 素材
(パスタ)
南部では乾燥品を用いる。北部では乾燥品と同時に生パスタもしばしば使われる。
(私の偏見かもしれませんが)生地がパンの様に柔らかいか、せんべいの様にガリガリの両極端になる。具が少なくて味が濃い。 ピザ (私の知る範囲では)生地は薄くて柔らかい。具は薄味で、皿(生地)にのったおかずのような感じ。
スパゲッティなどの麺が多い。強めの味付けが多い。食べるときしばしばスプーンを使用する。 パスタ料理 ショートパスタや生パスタなど特徴あるパスタのほうが多い。食べるときスプーンは使わない。
風味や盛り付けが、美しく上品で繊細で量は少ない。しっかりと味をつける。懐石料理に通じるものが感じられる。レシピにはイタリアの貴族料理の流れをくむものが多く見られる。 料理
(全般)
風味や盛り付けが、素朴で力強く、量が多い。新鮮な素材の味を生かす。各地方に代々伝わる基本レシピを家庭風にママがアレンジした、オリジナルレシピが無数にある。
肉は牛肉が多い。魚料理の頻度が高い。野菜料理が極めて少ない。 料理
(素材)
肉は牛のほか、豚(北部)、羊(南部)などいろいろ使う。魚は漁港の周辺以外はあまり使わない。野菜料理はきわめて多様で種類が多い。
薄くて量が多い。日本でエスプレッソと呼ばれるものの中に、イタリアではアメリカンの範疇に入ってしまうものすらある。 コーヒー 濃くて量が少ない。
画一的。ティラミス、ジェラートなど決まったものを出す店が多い。 ドルチェ お菓子の種類はきわめて多様。もっとも食事をする店とお菓子を食べる店は別になることが多い。
「イタリア料理」と一括する。同じ店でミラノの料理からナポリの料理までいっぺんに出てくる。 地方性 地方ごとに別の料理と考える。素材もレシピも地方によりそれぞれ異なる。
 何事も例外があります(特に高級レストランなどでは、これらの問題に対しそれぞれ工夫しているところが多いと思います)。この対照表は、すべてのケースに当てはまるわけではありませんが、一応の目安として作ってあります。

 この一覧表から読み取れることは、素材自体の違いの問題、日本人の好み(高級品=肉・魚を懐石風にいただく)の問題、この2つのことにより日本国内で地中海各地の地方料理、伝統料理を味わうことを難しくなっていることがわかります。
 日本のイタリアンレストランの殆どで、イタリアで普通に食べられている料理が出されないのには、このようなわけがあり、料理人が手を抜いているわけではないと考えています。

 特に素材の違いの問題は深刻です。伝統料理には素材の味を生かすものが多いですので、その味が違うと言うことは決定的です。この問題の解決法は、とにかく現地から輸入するしかありません。しかし地中海地域ではほとんどの食材が生で流通しており、個人での輸入はほとんど不可能です。またチーズやオリーブオイルなどは保存可能な加工品ですが地域間の品質の差が大きく、日本で特定のものを手に入れるのはかなり困難です。日本で現地と同等のものが入手できるのは、瓶詰めワインと乾燥パスタくらいではないでしょうか。

 イタリアのカプリ島の2つ星レストランのシェフが、テレビでその店の売り物のズッパ・ディ・ペッシェ(ブイヤベース)の作り方を実演しているのを見たことがあります。なぜそんな大事な企業秘密を公開できたのでしょうか。もちろんカメラの前で実演したそのレシピが本物であるかどうかはわかりません。ただ、そのとき素材として使っていたものは、カプリで取れた新鮮な魚介類、カプリのワイン、そしてカプリの海水でした。私はシェフが自身満々に調理する姿を見て、「この味は他で取れた材料では絶対味わえないよ。カプリの私の店にこない限りはね。」と言おうとしているのではないか、という気がしてなりませんでした。