なんじょるの、fripSideのヴォーカリスト南條愛乃さんの歌声、
一度聞くと頭から離れない、特徴ある美声です。
その訳が知りたくて、突然ですが、このようなページを作ってみました。
圧倒的な声量で、心に染み渡る気持ち良い響きを持っていて、しかも歌唱力自慢の女性歌手達とは、ひと味ちがうテイストです。こんな素晴らしい声に出会ったのは初めてです。小室哲哉以来のビート使い、あの八木沼さんが、ヴォーカリストとして口説き落としたのも頷けます。
繰り返し聞くうち、まるでオーラのように、バックに何かトランペットのような音が聞こえるようになってきました。いや、バイオリンかもしれません。実際に楽器が鳴っているのではなく、声そのものにそのような音が含まれているように感じられたのです。
不思議に思って、なぜバイオリンのような響きが聞こえるのか、声の特徴を解析してみました。
まず声楽的な解析法を即席で勉強しました。(専門家が見れば、かなり雑な理解だと思います。スミマセン。)
では、さっそく解析してみます。ソフトウェアは、わざわざプログラムを書くのが面倒だったので、有名なaudacityを使わせて頂きました。操作は超簡単で、音声の解析に大変便利なフリーソフトです。
解析したのは、高音の響きが見事な「Floral Summer」(ゲームソフト「フローラル・フローラブ」OP、2016年7月29日発売)の1分49秒50〜1分50秒00付近(♪ 歩んで行けるよあなたとな『らー』 ♪ のD#5基音622Hz )です。
※ゲームは、特に関心のある人以外、無用。 私も、楽曲のみに関心です。
スペクトルには、高音域まで沢山の整数倍倍音が含まれ、力強い高音を持つヌケの良い声であることが確認されます。特に一番高音側まで強く明確なピークを持っていることには驚かされました。
まず基音の622Hzを含む1000Hz付近に、幾つかのピークが見られます。この部分だけを抜き出して聴いてみたら、まったくなんじょるのらしくない、在り来りの声でした。
この基音の622Hzはそれほど強くなく、声の大部分は倍音で構成されています。
よく「倍音とは、基音の裏側で鳴っている幾つかの音」など誤解した解説が見られますが、むしろ声の大部分は倍音で、基音は聞き取るのが難しいくらいです。会場で肉声でなくマイクの声ばかりが聞こえるようなものです。
次に8000-10000Hz付近に、明確な倍音のピークが次々と現れます。ここを抜き出して聴くと、声量のあるきれいな高音でした。なんじょるのの歌声の軸になる部分だと思います。他の曲でもこの帯域は常に一番強く出ています。ここをコンスタントに出す歌手は、既に高音が得意な歌手と言えるでしょう。
最後に15000Hz付近の超高音の帯域に、かなり強いピークが連続して現れます。普通の「ラ」(440Hz:基準周波数)より、なんと5オクターブも高い音です。ここだけを取り出して聴くと、キーンとしてキラキラ輝くような、声というより音が聴こえてきます。
15000Hz付近まで力強く発声できるのはよほど傑出した歌手で、例えばマリア・カラスは驚くべきことに15000Hz付近に大きくブロードなピークを持っていました。またBABYMETALの中元すず香(SU-METAL)も、低域から15000Hz付近まで途切れることなく明確なピークを連続させています(このあたりkifuruさんの解説)。
このような連続的に広帯域の声を出せる歌手は、歌唱力としてみた場合上手であり、声に一体感が生じ広がりが感じられます。一方なんじょるの声は、5000Hz、12000Hz付近で明確な倍音がいったん途切れて、3つの帯域により構成されています。
まとまりがない声との見方もあるかも知れないですが、まさにこれが複数の声が出ている、バイオリンのような音が聞こえる、と感じたことの正体であると推測しました。遊牧民族に伝わる、二つの声が出ると言われる「ホーミー」という歌い方と、恐らく共通するものではないかと予想します。私は、なんじょるのの声の唯一無二の個性になっていると思います。
また3つの声に挟まれた2つの帯域が、少しハスキーな感じを出すとともに、高音域に厚みを与えているように見えます。普通は一続きになる周波数分布が局在していることで、ちょっとフィルタを掛けたような印象も与えます。
ちなみに下図がバイオリンのスペクトルです。低域から20000Hz付近まで、絶え間なくきれいな倍音が続いています(さらに上の帯域は、CD録音の際カットされたようです)。なんじょるのの超高域部の鋭いピークがバイオリンの成分のように聴こえたのだと思います。
下図は美声で有名な絢香さんが「ちいさな足跡」で「あ『ー』」と歌う部分のスペクトルです。バイオリンと同様に、低域から高域までひと塊の強い倍音が途切れず続く完璧なスペクトルです。一般の人では、強い倍音の塊の分布幅が狭くなってきます。
なんじょるのそっくりの歌声の持ち主は知りませんが、ちょっと近い雰囲気の声が一瞬出るのが、綾瀬はるかさんです。下図は赤いスイートピーを歌う綾瀬はるかさんのスペクトルです。2分42秒67〜42秒95付近の、(♪ 赤いスイ『ー』ートピー ♪ のB4基音494Hz )です。全帯域に広がるいい歌声で、ある程度のハスキーさを反映した帯域(10000Hz付近)で倍音の連続が途切れ、スペクトル全体に少し「なんじょるの感」が出ています。ただピークの明瞭さ、倍音不連続部の大きさがなんじょるの程ではなく、また3000-4000Hzの中域に声の核があるため、強い高音感は出てきません。
幾つかの限られた狭い帯域だけに強く明瞭な倍音が出ることが、なんじょるの歌声の強い特徴です。
なんじょるののような高音は、主として鼻腔の共鳴により生じるものです。理由は分かりませんが、声楽的にはあまり勧められず、評判がよろしくないことがあるようです。恐らく、本来は咽頭腔・口腔・鼻腔をバランス良く共鳴させ、途切れのない広帯域の声を出すのが理想とされる中、鼻腔のみの共鳴では声のバランスが悪く声量も限られてしまうからでないかと想像します。またひょっとすると、鼻声に対し嫌悪感を持つ人がいるのかもしれません。
実際、このタイプの歌手はあまり見かけません。それは、巷の評判がどうこうということより、単に技術的に難しいためとも聞きます(私自身、根本的に発声が下手なので、本当に難しいかは判断できません)。
または、やはり中域が弱いため声量が損なわれ、かつ声が分離した感じがするからでしょうか。その点、八木沼さんのシンセ音との相性は、抜群だと思います。解析で分かったように、なんじょるのは、普通の声(1000Hz付近)、高音(8000-10000Hz)、超高音(15000Hz付近)の分離した3つの声を持っています。ライブ的に1人で3つのパートをこなし、それがsatさんの打ち込みと完全に融合し、最高のハーモニーを奏でています。
これが、sat〜なんじょるの のfripSideが至上最高のユニットであるひとつの背景ではないでしょうか。
ここまでおつきあい有難うございました。 2017.12.1
by S. Tom. (fripSideのファンです。八木沼さん・じょるの、とも。)