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ビサンチンの美を伝える山深き小聖堂群
Tróödos
Τρόοδος
トロードス
(キプロス)♦
アギオス ニコラオス・ティス・ステギス聖堂

く乾燥したキプロスで、島の中央部のトロードス山地(本来トローゾス、以後日本語文献の通例に従いトロードスと表記)は、標高2000メートル近いオリンポス山を最高峰とした緑の別天地だ。夏は多くの島民が避暑に訪れる。
 そんな山々の間に、11〜12世紀のギリシア正教の小聖堂が数多く残されている。

ステギスの内部の様子
 7世紀のアラブ人の侵攻以来、カトリック、イスラム支配が長く、正教徒の受難の時代が続いたが、トロードスの深い山中では正教の伝統が耐えることなく続いた。
 その結果、世界的にも貴重な中世初期の沢山のビサンティンのフレスコ画が残ることになった。
 また建物にも特徴がある。冬は雪深いトロードス山中で積雪から守るため、ギリシア正教の十字プランの小聖堂をカバーするように、切妻型の大屋根が設置されている。一見倉庫のようにも見える建物の中に小聖堂があり、さらにその内側のドームや壁一面に素晴らしいフレスコ画が現れるという構造だ。
パナギア・トゥ・アラコス(アラカ)聖堂。明り取りから聖堂のクーポラが見える。
 従来これらの聖堂は地元民が管理しているため、見学は簡単ではなかったが、世界遺産に指定されたことで管理人が常駐するようになり、容易に見て回ることが可能になった。
 聖堂群のうち9つは世界遺産に指定されており、人家疎らな山中の半径15kmの円内に点在している。レンタカーと詳しい地図は必須のアイテムだ。
アラコスの外壁のフレスコ。風雪から守られてるいため鮮やかだ。
 アギオス・ニコラオス・ティス・ステギス(Ágios Nikólaos tis Stégis/Άγιος Νικόλαος της Στέγης)聖堂は、高原のリゾート、カコペトリアから2kmほど山に入った谷間にある。11〜12世紀のものと言われ、ビサンチンの小聖堂を覆う形で、外に建物が設けられ、明り取りの窓が内部の聖堂の構造に合わせて、設置されている。名前は「屋根の聖ニコラオス」を意味し、当初の長い屋根の形に特徴があったことから、そう呼ばれるようになったという。
 キプロスの聖堂は撮影禁止が多く、内部の写真は無いが、数百年に渡り描かれ続けてきた、見事なフレスコの聖画が、ドーム下、壁、柱などを埋め尽くしている。
アシヌ聖堂の外観。見通しのよい丘陵地帯にある。
 ティス・ステギスから谷を2本東に移動するとラグゼラ(Lagouderá/Λαγουδερά)という小村がある。その外れにパナギア・トゥ・アラコス(Panagía tou Árakos/Παναγία του Άρακος)聖堂がある(パナギア・トゥ・アラカとも呼ばれる)。トロードス聖堂群のなかでは大きいほうで薄い板状の石で葺いた屋根と格子状の組み合わせた木材とでできた聖堂を保護するカバーのような建物は、まるで倉庫のようだ。
 中は薄暗いが、それでも修復された数多くのフレスコの聖画は鮮やさを取り戻している。

アシヌ聖堂の側面の入口。小さいので向こうの谷が見通せる。
 トロードス山地の北側、北キプロス共和国近くまで下った丘陵地に、アシヌ(Asínou/Ασίνου)聖堂がある。正式には、パナギア・フォルヴィオティッサと言うが、通称アシヌの方が通りがよい。小村ニキタリ(Nikitári/Νικητάρι)の南の緑豊かな高台に、あたりに溶け込むように建っている。
 しかし世界遺産指定以来、幹線道路からも近いためだろう、道路がきれいに舗装され、立派なレストハウスが建ち、観光バスのツアーにも対応できるほどのインフラ整備がされている。しかし聖堂自体は、団体客が来たら身動きもできないほどの小ささだ。
 元の聖堂を覆うのは、一見農家か何かのような石組みの建物だ。内部には、11〜12世紀の美しいフレスコの聖画が並ぶ。
 カコペトリア(Kakopetriá/Κακοπετριά)、プロズロモス(Pródromos/Πρόδρομος)、プラトレス(Plátres/Πλάτρες)など山間のリゾートをベースに、できれば少なくとも2日は掛けて回りたい。