地中海各国には驚くほど多くの共通点がありますが、それはなぜですか?

地中海世界には衣食住の文化の上での共通性が多く見られます。

 食文化の上では、オリーブとワインを中心に、牧畜により得られる羊の肉・乳・チーズ、海から得られる魚介類、それに太陽の恵みをいっぱいに受けたとても甘い果物・野菜類(野菜でさえ甘いものが多い)が共通の土台になっています。各国料理を研究すればすぐ気がつくように、レシピの大部分は重なり合っており、本当にその土地にしかない料理はむしろ少数派です。

 また建物はキューブ型の白い建物を基本としており、夏の強い日差しを避けるよう壁は厚く、窓は小さくなっています。広い個人の庭を持たず広場を共有するスタイルが中心です。アフリカ、アラブ、地中海の島々との多くの地域、それにギリシア、イタリア南部、スペイン南部、ポルトガル南部などに良く見られます。しかし今日ではヨーロッパ諸国ではゲルマン、スラブなど北方諸族の影響を受けた典型的なヨーロッパ風建築の方が多くなっています。

 衣類については、日本で時代劇のようなカッコで日常生活をおくる人がまったくいないのと同様、いまでは伝統的な服装はまったく廃れてしまいました。ギリシアのカルパソス島、イタリアのサルデーニャ島の山村など、一部の僻地で観光客向けに着られているのみです。

 それにしても、これだけ広い、しかも民族的にも多様な地域で、こうした文化的な共通点が生まれたのは興味深いことです。背景として、以下の3つのことが考えられます。
 第一に、歴史上一つの国または民族が地中海のかなりの地域に行動範囲を広げたことが何度かありました。紀元前のフェニキア人およびギリシア人、1〜3世紀頃のローマ人、8〜10世紀頃のアラブ人、16〜18世紀頃のトルコ人です。このことによって文化の共通化が起こったと考えられます。なかでもローマ帝国は完全に地中海を統一しており、その影響は計り知れません。
 第ニに、自動車や鉄道ができる前は、海上交通こそが輸送の中心であり、地中海沿岸はいわば街道沿いの、最も開けた地域であったということがあげられます。そのため当然種々の物産の交流も盛んであったと考えられます。
 第三に、有史以来戦争によりきわめて頻繁に国境線が変更されたことがあげられます。各地域が時代によりまったく別の文化圏の支配下に入り、しかもそれがしばしば変わることにより、結果的に文化が平均化していった側面があると思われます。例えばイタリアのシチリア島やスペイン南部はかつてイスラム統治下にありました。また現在のトルコはかつてのギリシア(ビサンティン帝国)があった地にそれを滅ぼして建国されたものです。

 国ごとの違いを見つけるのとは逆に、国境線には関係ない共通点を見つける旅もまた面白いことでしょう。