地中海,フランス,プロバンス,プロヴァンス



 フランスの中の異国−南仏 



 フランスの中でも南仏の地中海沿岸地域は別の国であると、よく語られます。

 それはあえて一言でいうなら、有史以来、中世までは別の国であったこの地域が、パリを首都とするフランスに征服されたためということになるでしょう。パリの数百年にわたる中央集権的な姿勢にもかかわらず、南仏は現在でも相当に独自性を残しています。

 南仏の魅力とは、古代の地中海諸民族から受け継いだ地中海地域の共通文化と、パリを中心としたフランス文化の融合にあると言えるのかもしれません。


(1)南仏の各地域
(2)フランスの南北比較早見表



(1)南仏の各地域

 南仏の地中海沿岸は、現在の行政上の地方区分ではローヌ川をはさんで東のプロヴァンス−アルプ−コート・ダジュール地方と、西のラングドック−ルシヨン地方とに大きく分けられており、さらに県単位に細分化されています。地中海生活では歴史的背景を考慮し、ローヌ川の東ではニース周辺を、西ではルシヨンを別の地域と考え、全部で4つの地域に分けてみたいと思います。
 なおこの他、ニース地域内には世界第二の小国、モナコ公国があります。また地中海のニース沖に浮かぶコルス島(コルシカ島)があります。
南仏の4つの地域


黄;      ニース
だいだい;  プロヴァンス−コート・ダジュール(ニースを除く)
茶;      ラングドック
ピンク;    ルシヨン


 ニースはコートダジュール地方の中心地で、フランスで第5の都市圏でもあります。山と海の調和が美しい世界的な観光地であり、リゾート地としても18世紀にはすでに英国貴族の間で有名になっていました。
 ニースはフランス、イタリア両文化圏の境目に位置し、政治的にも帰属がめまぐるしく変わりましたが、1388年〜1860年の500年近くの間、基本的にはイタリアの一部であったため、イタリア的な色鮮やかな町並みに特徴があります。

 プロヴァンス−コート・ダジュールは、フランス第二の都市マルセイユを中心にした地域で、風光明媚な地中海と山とのコントラストに加え、古代ローマや中世プロヴァンス王国の文化的遺産が、この地区を多いに特徴付けています。
 プロヴァンス王国は855年〜1713年の間、神聖ローマ帝国(ドイツ)、フランスなどと提携し、時には侵略を受けながら、一応独立を保っていました。しかしなかでも、独立が比較的保たれロマネスク文化が花開いた12世紀から、法王庁が存在した14世紀の頃が絶頂期と言えるでしょう。このことが南仏、特にプロヴァンスがフランスの中の異国であると言われる所以です。

 ラングドックはプロヴァンスに比べると地形的に穏やかな、ローヌ川からスペイン国境にかけての地域であり、ニーム、モンペリエ、ナルボンヌなどの都市があります。
 ラングドックとは「オック語」(スペインから南仏にかけて話される言語)との意味です。
 古代からブドウ(ワイン)の産地として有名で、現在もフランスを代表するワイン産地です。ローマ帝国崩壊後は独立したプロヴァンスと異なり、フランス王国の中の一地方として今日に至っています。

 ルシヨンはローマ帝国の昔からスペインの一部であった地域ですが、1659年にフランスに併合されました。そのため今でもカタルーニャ語が話されており、スペイン的な特徴が強く現れています。
 中心都市はペルピニャンです。



(2)フランスの南北比較早見表

 南仏    北仏
ラテン系。明るく楽天的。「ワインがまだ半分はある。」 気質 ゲルマン系。冷静で個人主義。「ワインがもう半分しかない。」
リグリア人にケルト、ギリシア、ローマ、ゲルマン等の血が入る。地中海系民族が中心。 民族 ケルト人とゲルマンの混血。大陸系民族。
ラテン語がケルト的に訛ったオック語を使用していた。フランスに併合され、1539年公用語はフランス語となった。現在はフランス語が主流となり、オック語使用者は1300万人中200万人程度になった。なおオック語はスペインのカタラン語とかなり近い言葉。 言葉 ケルト語がローマの影響を受けてできたオイル語に、ゲルマン語の影響が加わり現在のフランス語となった。
自然と人間の共生のバランス、昔から変わっていないやりとり・生活のペース、文化としての衣食住。厚い宗教心。 生活 基本的には大地に根ざした、質実剛健な生活。都市部はローマの混血文化。保守的でありかつ大胆。
太陽が照りつける乾いた夏と、ミストラルの吹く冬。日時計が見られる(晴天が多い)。 気候 やや短いが快適な夏と、長く厳しい太陽のない冬。
乾燥した石灰質のやせた土地で耕作に適さない。おおむね山勝ち。 風土 平野や丘陵が続く畑作地帯。
牧畜(羊・山羊)と果樹(ブドウなど)・オリーブ栽培。ハーブの採取。が重要(料理、香水や香り、治療)、香りや薬効はアラブ人から教わった使用法。 農産物 酪農(牛)と畑作(ジャガイモ等)。牛が多い。
羊、野菜、果物、ニンニク、ハーブ、海の幸、ワイン 食べ物 牛、バター、穀物、じゃがいも
クレーシュ(色づけした粘土人形)を飾る。 クリスマス ツリーを飾る。
紀元前18〜9世紀はリグリア人の世界。紀元前7世紀にはケルト人が侵入。紀元前600年頃にマルセイユが、リグリア人の協力のもとギリシア人により作られた。(他にニース、アルルもギリシア系の町として知られる)。ギリシア人がオリーブとブドウをもってきた。 歴史
(紀元前)
先住民族を追い払い、ケルト人が定着したが、紀元前1世紀頃、ローマ帝国に併合される。
エクス、アルル、オランジュ、ニームなどの都市ができ、南仏からスペインにかけて、ユリウス・アウグスタ〜ドミティア街道筋のまとまった地域となる。聖人伝説によるキリスト教にとっても重要な地。 歴史
(ローマ
帝国時代)
ルグドゥヌム(リヨン)、ルテティア(パリ)、コロニア(ケルン)などの都市ができ、ドイツからフランスの北部にかけて、鉱業および牧畜業が盛んな地域となる。
ゲルマン諸民族、サラセン(アラブ)人の支配、襲撃を受ける受難の時代。 歴史
(ゲルマン民族大移動)
ドイツのライン川付近に起源を持つフランク族がフランク王国を打ち立て、西欧の大部分を含む大帝国に発展する。843年、帝国は分裂し今のフランスができる。
プロヴァンス、ラングドック等の自治王国として、平和で安定した発展の時代を迎える。アビニョンは法王領となり教皇を立てローマに対抗した。しかし徐々にフランスの影響が強くなる。 歴史
(中世)
フランス王国は英国との100年戦争を勝ち抜き、さらにドイツ、イタリア側へと領土を広げ、発展した。南仏も手中に収めた。
フランスの支配下に入るが、近年まで比較的独自性は保たれた。しかしメディアの発達により文化の画一化はますます進みつつある。 歴史
(近代〜
現代)
フランスは近代国家となり、主要国家の一つとなった。19世紀を中心に世界各地に海外領土を広げた。