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難攻不落の海上要塞都市
Monemvasiá
Μονεμβασιά
モネンヴァシア
(ギリシア)♦♦
Centro
Storico

お椀を伏せたような岩山が、町の全て

一の入口(Μόνη Éμβασις−モニ・エンヴァシス)を意味するモネンヴァシア。ひと目見た時から、これほど強い印象を与える町は他にないだろう。
 海上に現れるちょうどお椀を伏せたような形の高さ約300メートルの岩山、近づいていくとまっすぐな細い一本の橋が掛かっている。橋の大陸側の袂は観光客で賑わう小さな村になっているが、岩山には見たところ何もない。

旧市街の入口、西門

 それでも長い橋を渡り、さらに岩山の右側の海岸に沿って続く道を進んでいく。徒歩なら20分はたっぷり歩いた頃、はるか先にトンネルのようなものが見えてくる。これがモネンヴァシアの入口だ。
 車は橋を通って島に渡ることはできるが、城門(西門)から先は中世そのままの狭い道でなので入れない。駐車場もないため途中の路肩に空きを見つけて路駐し、結局歩いていくことになる。

細いメインストリートの両側は観光客相手の店で賑わう

 町は陸からは見えない隠れた裏斜面にある。こんな場所に町があること自体が驚きだが、さらに信じられないことに、トンネルのような堅牢な城門をくぐって入ったのは、まだ「下の町」に過ぎない。さらに「上の町」に入るには、つづら折で崖をよじ登るたった一本の道を辿り、厳重な要塞となった入口を通過して入るのがたった一つの方法だというのである。まさに海に浮かぶ難攻不落の要塞都市だ。
 岩山へ通ずるのは緊急時には取り壊し可能な橋が1本だけ、さらに下の町は崖と厚い城壁とに囲まれ3箇所しか門がない。他の2つの門は、海から直接入る海の門、岩山の裏側に抜ける東門だ。

厳しい表情の要塞都市にも、時にはこんな和みの空間が

世紀にスラブ人の侵入を避け、住みついたビサンチン帝国の住民により町の歴史は始まった。東地中海に睨みを利かす軍事拠点としても、ペロポネソス半島の交易および東方航路の中継点としても、重要な立地にあったため、中世にかけて町は大いに繁栄した。
 同時に町の要塞化が時の政権によって進められ、地中海を席巻したアラブ人やノルマン人ですら落とすことができなかった難攻不落の町であった。国の支配者が代わるに伴い、町の主もフランス人、ヴェネチア人、トルコ人と変わっていったが、紛争の絶えなかった地中海の歴史で、一度も武力による陥落をしたことがない都市も珍しい。過去にこの町が白旗を揚げたのは、例外なく包囲戦によってのみであった。

下の町は、急峻な崖の下の斜面にある

 中世の最盛期には人口5万人を数え、ヴェネチア共和国の都市「マルヴァジア(Malvasia)」と呼ばれていた。ここから積み出されたマルヴァジア種の甘口白ワインはヨーロッパで好評だった。
 地中海航路の衰退、安全な近代社会の到来と共に町は意味失い、上の町は住む人もなく上の町の入口に立つアギア・ソフィア教会を残して廃墟となり、下の町も廃屋が目立つようになっていた。紀元前の貴重な遺跡が数知れず存在するギリシアで、見捨てられた中世都市への注意は殆ど払われていなかった。最近になってようやく再興の動きが進んできた。

上の町へと続くつづら折の階段からの眺め

 下の町は中心部のかなりが修復され、狭い目抜き通りには土産物屋やカフェが並び、ホテル、アパートの数も増え、人気の観光地となっている。しかし東門近くの城壁内の建物も疎らで、昔の栄華には遠く及ばないであろう。
 西門の分厚い城壁のトンネルをくぐり、町の中心ジャミウ広場までは、両側に店が続き大変賑やかだ。ジャミウ広場には、町一番のフリストス・エルコメノス教会があるジャミウ広場があり、広場の反対側には今は博物館になっているトルコ時代のモスク(ジャミイ)もある。広場の回りはカフェが沢山あり、夏の暑い季節は、日陰と冷たい飲み物と求めて多くの人が集まっている。
 メインストリートを通らず路地を彷徨いながら歩き回るのも楽しい。サイズも小さく、町の構造も簡単なので迷うこともない。強い陽射しに照らされた石の壁の間から、時折垣間見える海の青さにはっとする。

上の町のアギア・ソフィア教会、唯一現役の建造物

場を上に登っていくと、一歩一歩高度を増し、その時々に振り返る眺めはどれも絵になる光景だ。やがて石造りのつづら折の道になり、ぐんぐん上がっていく。
 10分ほど登っただろうか、上の町へと通ずる、城壁を貫く狭く長い真っ暗なトンネルを抜けると、目の前に台地が広がる。

岩山の頂上から、一本橋と本土の村ゲフィラを望む

 あの岩山の上にこんな場所が広がっているとは驚きだが、その殺伐とした光景は町と呼ぶには意外な感じだ。唯一の現役の建物であるアギア・ソフィア教会を残して、原型も定かでない瓦礫が草に埋もれて点在するばかりだ。
 11世紀に建立されたアギア・ソフィア教会は、上の町の海にせり出した断崖の縁に立っている。その端正な姿と背景に広がる絶景は、比類なきものだ。教会裏に回ると、足もすくむ程の崖となってコバルトブルーの海に落ち込んでいる。
 広場から15分の登りで既に体力を消耗しているが、力を振り絞ってぜひ岩山の山頂に登っておきたい。廃墟となった上の町を緩く登ること15分、山頂の大きな岩の下部に出る。気をつけて岩に攀じ登ると、本土と繋がる一本橋を真下に覗き込む雄大な展望が得られる。岩の近くには、上の町に現存する数少ない建物であるベネチア時代の砦がある。

本土側の海岸には島を見ながら食事ができるレストランが並んでいる

 モネンヴァシアへのアクセスは意外と大変だ。航路はなく(2006年8月現在)、ペロポネソス半島の山々を越えてアテネからバスで5〜6時間(車なら4時間)かけて行く不便な場所なのだが、そのため落ち着いた大人のリゾートの雰囲気が保たれている。
 ホテルは、城壁内の旧市街にマルヴァジア、ケリアなど中世の雰囲気を保った素晴らしい宿があるが、人気が高い上、短期滞在客は泊めないので、予約が全く取れない。運良く予約できても、車が入れないので荷物を持って自力で宿までたどり着く必要がある。むしろ本土側の町ゲフィラ(Géfira/ΓέΦυρα)には、橋の袂近くに、プラマタリス(PRAMATARIS)、フラワー・オブ・モネンヴァシア(FLOWER OF MONEVASIA)を初め、手ごろな旅館が数軒あるのでお勧めだ。
 またゲフィラの海岸は橋の北側がビーチに、南側は岩山を望むロマンチックなレストランのテラス席が延々と続く。フレッシュフィッシュ(冷凍ものでない取れたての魚)と指定すれば、漁港で上がったばかりの新鮮な魚が味わえる。旧市街にも良いレストランはあるので、目的に応じて使い分けしたい。
 日帰りで訪れるのはもったいない、ギリシアでも屈指の町としてお勧めしたい。