"地中海,イタリア,ポルトフィーノ,portofino"
高級リゾートとしてテーマパーク化した快適な漁村
Portofino
ポルトフィーノ
(イタリア)♦♦
Centro
Storico

均整の取れた漁港は、まるで作られたかのよう

界中のセレブに人気のポルトフィーノ。その魅力を語るキーワードは、「ラグジュアリー」と「カジュアル」だ。一見両立しない二つの要素を合わせ持つこの村のキャラクターは、村自体をテーマパーク化するという前代未聞の試みによって成し遂げられた。
 ローマ時代にはポルトゥス・デルフィニ(Portus Delphini−イルカの港)と呼ばれていたポルトフィーノは、海洋国家のつばぜり合いが激しかった中世には、天然の要塞としてジェノヴァの重要な戦略拠点であったが、近代に入り北国の富豪が住むリゾートとして脚光を浴びるようになってきた。

 ポルトフィーノの美しさは、ひとえに地形と一体化した町の構造にあるといえよう。

半円形に配置された漁村の町並み(ブロウン城より)

 まるで計画的に配置したかのような個性をもちながらも一定の大きさのマッチ箱のような家々が、入り江に沿ってリズミカルに半円形を形作って並び、それを守るように延びる半島の中ほどのサン・ジョルジョ教会とブロウン城(Castello Brown)が高みから村を見下ろしている。

高級リゾートとありふれた漁村の風景が共存する

 他のリゾートと一番違うのは、これら全ての建物が村人の住まいか所有者の別荘であり、生活の場であるということだ。観光客の殆どは日帰りの訪問客で、日中に住民が開いたレストランや土産物店にただ立ち寄っていくだけだ。だから村の姿は、港に停泊する豪華クルーザーを除けば、百数十年前の写真と比べても殆ど変わっていない。
 70年以上前から法律で、村の許可なしに新築や増改築を禁じてきたというから驚きだ。壁の色一つでさえ、塗り直しはできても許可なく色の変更はできない。

かつてはポルト・デルフィニ(イルカの港)と呼ばれた

 車の乗り入れは禁止され、食堂、食品・生活用品店など、村人の生活に必要な店を除き一切の営業活動もしてはならない。
 僅か数軒しかないホテルは、既存の建物の内装だけ変えて、奥や山中の目立たぬ位置でひっそり開かれている。法律ができる前から港で営業していた一軒の旅館「アルベルゴ・ナツィオナーレ(Albergo Nazionale)」だけが、唯一の例外だ。
 その結果、100年前の鄙びた漁村が、まるごと保存されている。


港の全景、背後の山の中腹がホテル・スプレンディード

のリゾートについて語るには、ホテル「スプレンディード」を抜きにしては語れない。
 村と港とを見下ろす眺めの良い山腹に立つ富豪のヴィラを改装して1901年に開業したスプレンディードは、欧州の著名人たちの定宿となり社交の場として使われるようになる。近年、同じ斜面の海寄りに別館「スプレンデード・マーレ」が開かれ、今も変わらず憧れの存在だ。
 ホテルから村までは、歩いて10分と掛からない。広大な敷地内のテラスやプールで過ごすのも、懐かしさ溢れる漁村でショッピングを楽しんだり、ビーチを訪れるのも思いのままだ。

普通の食料品店に混じって、[→]

有名ブランドのショップがさり気なく点在する

 村には観光客向けの普通のショップやレストランがある一方、パリやミラノと変わらぬ有名ブランド店も軒を並べている。
 他の地中海の隔離されたラグジュアリーリゾートと違って、この村では最低でも1泊10万円以上は必要なセレブのリゾート品質を享受しながら、同時に肩肘を張らないカジュアル感覚で過ごすこともできる。まさにそれが、人気の秘密というわけだ。

漁船とレストランとに囲まれた広場はいつも賑やか

 だがポルトフィーノは、我々と縁がない場所ではない。ここは、我々普通のツーリストにも大変魅力的な場所だ。なにしろ1世紀前の美しい漁村が、そっくりそのまま残されているのだから。
 村は、鉄道が通る近くの町サンタ・マルゲリータ・リグレと、バスや船で結ばれている。港に朝一番の船が着く9時半に、静かだった村に活気が訪れる。春から秋にかけての天気のいい日には、小さい村の広場や路地は人で溢れ返る。
 ショップもレストランも一般客向けの店であれば、観光地価格としては普通の範囲なので心配せず入ってみるとよい。店を覗きながらでも、村を一巡りするには小一時間あれば十分だ。


狭い山稜上のサン・ジョルジョ教会は、両側が海

の後は、城へ向って遊歩道を歩いていこう。港を眺めながら緩く坂を登る道を取るか、港に沿って海岸を進み最後に急な登りを取るか、いずれにしても10分もかからず、サン・ジョルジョ教会前のテラスに出る。灯台のある細い岬の山の上に乗った位置にあり、東にはポルトフィーノの均整の取れた村の全景が、西には青い海と荒々しく切り立った崖が展開し、どちらも素晴らしい眺めだ。
 この先、灯台に向って緩く登っていく。前世紀初頭に立てられたヴィラが点在し、今でも別荘として使われているようだ。ブロウン城と呼ばれているのは、そのうちでも一番高い位置にある立派な建物で、1870年にイギリス人のブラウン氏が古い城を買い取り、住めるように補修したものだ。他のヴィラと同様に歩道沿いある入口で券を購入し、広大な敷地を頂上目指して登っていく。

ブロウン城から見下ろす、サン・ジョルジョ教会

 建物に入ると、上層階のテラスまではもう一登りだ。このテラスからの眺望の、本当に素晴らしいことと言ったらない。
 足元に扇形を描いて連なるポルトフィーノの家並みと、それに同調するように弧を描いて停泊するクルーザーの数々。周辺の海岸線や背後の山々に点在する、豪華なヴィラ。
 中でも一番大きいものが、旧バラッタ邸、現在のホテル・スプレンディードだ。そして背後には、リグリアの海岸線と山並みがどこまでも続いている。

マリーナには豪華な自家用クルーザーが並ぶ

 夕闇が迫るころ、ポルトフィーノは静けさを取り戻す。疎らな街頭や店の明かりに、プロムナードは日中とは違った鄙びた漁村の雰囲気を漂わせる。
 水際に並んだリストランテのテーブルについて、闇の中で微かに揺れる水面の音を聞きながら魚介料理を味わえば、昼間とは別世界だ。

観光客が引いて落ち着きを取り戻した、夜の港